コラム:団地の木と草とキノコ 1 巨大な「テングタケ」

―キノコは森をつくる(外生菌根菌)―

投稿YZ

 今回から、団地で見られるキノコの世界です。

キノコは食卓に欠かせない食料品です。国民一人当たりの年間消費は約3.6kgです。

「野生の好きな食用キノコ」と云えば多くの方が、「マツタケ」、「ホンシメジ」、「シイタケ」、「マイタケ」等を連想します。また、地方により、嗜好の違いから埼玉・群馬県では「ウラベニホテイシメジ」、栃木県では「チチタケ(チタケ)」など様々です。「匂い松茸、味占地」。実に的を射た言葉ですが、今では死語です。「日本産のマツタケ」や「野生のホンシメジ」は口にするどころか見ることすら出来ないほど発生量が極減し、庶民の口に入りません。「野生のシイタケ」も山に縁がない限り見ることはありません。

  例えば、「マツタケ」ですが、H27年の市場出荷量は約70トンです。本数にすれば、35万本程度しか採れていないと云うことです。日本人千人当り1本食べられるのは3人弱/年間(0.3%以下)程度の出荷量なのです。

  キノコの消費量は多いが殆どは「栽培キノコ」です。生産技術も向上し、大規模化で安価で供給出来ることから消費も鰻昇りです。気象の不安定により生産量や価格が不安定な野菜を凌ぐ市場になっており、日常生活に欠くことのできない食品になっています。

しかし、人工栽培で食べている「シイタケ」、「エノキタケ」や「ヒラタケ」、「ナメコ」、「ブナシメジ」、「マイタケ」、「ハナビラタケ」、「キクラゲ(栽培はアラゲキクラゲ)」「エリンギ(イタリア原産ヒラタケ)」、「マッシュリューム(ツクリタケ・西洋ハラタケ)」、の野生での姿を知る人は僅かしかいません。「ナメコ」、「ブナシメジ」は冷温帯のブナ帯でないと見られませんが、「エノキタケ」や「ヒラタケ」、「キクラゲ」、「アラゲキクラゲ」は、晩秋~初春にかけて、近くの雑木林や公園でよく見ることが出来ます。野生種は形も違い栽培種より遙かに美味です。

  一方、栽培きのこを沢山食していながら、「きのこは毒があり怖い。」とのイメージが特に都会人に定着しています。人間は本来用心深い生き物です。用心に用心を重ねつつ、食用キノコを命がけで選別してきたのは事実ですが、都会人は、食べて中毒した経験もないのにも関わらず、遺伝子に組み込まれているかの如く「キノコは毒があり怖い生物」との警戒心が強く、「野生のキノコ」には近づきません。キノコが趣味と云えば変人扱いされます。キノコ中毒事故を異常に煽るマスコミの影響が大きいのではと思います。今年はキノコ採りに行った人の遭難死事故もありましたが、厚生労働省によると、2006~2015年までの10年間に全国で発生したキノコが原因の食中毒は計494件、患者数は1476人で、このうち5人が死亡しているとのことです。1年平均では、食中毒約50件、患者数約150人、死亡者0.5人と少ないのです。

発生件数をキノコの種類別に見ると、ヒラタケやムキタケ、シイタケと間違えやすい「ツキヨタケ」が約4割と最も多く、次いでウラベニホテイシメジと見間違う「クサウラベニタケ」が約18%、「テングダケ」が約3.6%と続いていますが、「ツキヨタケ」や「クサウラベニタケ」では死に至ることは殆どありません。死に至ったのは、クロハツと間違え「ニセクロハツ」を誤食した場合と猛毒の「テングタケの仲間」の誤食が多い様です。殆どが類似の毒キノコに対する無警戒からきたもので、食べたことがあるものに似ているからと安易に口にしたケースが殆どです。

しかし、食用キノコだからと云って安心もできません。マイタケ,シイタケ, マツタケなど優良食用キノコでも、過剰な摂取や、生食、加熱不十分で摂取すると吐き気,嘔吐,腹痛,下痢などの胃腸障害やアレルギー症状を起こすこともあります。また、過去には、食用とされた「スギヒラタケ」が持病のある方を死に至らしめる毒キノコに変わった悲惨な出来事もありました。キノコに含まれる有害成分は地域,生育環境,また気象条件によっても含量が変化するため,微量な有害成分を含む食用キノコが今後毒化することも考えられるかも知れません。

現在、和名(学名)のついた日本のキノコの数は約3,500(~4,700)種です。多少でも毒が含まれるとされるのは1割の約350種。その内猛毒とされるのは、約30種前後であり、死に至らしめるほどの毒のあるものは、10種前後と云われます。毒キノコはそんなに多いわけでもありません。只、油断はできません。触っただけでも皮膚が爛れ、香りにも毒があり、食べたら必ず苦しんだ上に死に至るという「カエンタケ」という猛毒のキノコや有毒のアマニタトキシンを含む「ドクツルタケ」・「タマゴテングタケ」・「フクロツルタケ」等食べたら殆ど助からないキノコ、「ドクササゴ」のように苦しんだ上に内臓が破壊され死に至らしめるキノコ、「ニセクロハツ」も然りです。毒性が尋常ではないことも確かです。


写真*「カエンタケ」2018.9/24撮影 飯能市

   ところで、キノコは、山里の山深くに、密やかに発生するものであり、秋の産物だ。」と多くの方が信じていますが、これも誤解です。

 実際は、「キノコ」は、その種の特性にもよりますが、「水分(湿度)」と「温度」と「キノコの餌(菌床)」の条件さえ揃えば、季節を問わず、何処にでも発生するものなのです。「マツタケ」でさえ、秋だけでなく晩春~初夏にも発生します。発生条件を人工的に揃え、「エノキタケ」等は周年栽培で年間4~8回の収穫をしています。「シイタケ」も菌床栽培の確立より年中食卓を潤しています。野生でも、冬の極寒や夏場の猛暑旱魃期を除けば、年中何処でも何らかの「キノコ」が見られます。都会の公園でも沢山の種類のキノコが発生し、「都会のキノコ」と題する本まで発刊されベストセラーになっています。見えても見ないから見えないだけです。今羽町団地内でも、30種以上のキノコが、芝生の中、団地内公園、植栽樹下、時には植木鉢の中で見ることが出来ます。その中には、埼玉県での発見が三度目と云う埼玉県レットデータブック絶滅危惧Ⅱ類(VU)のキノコも含まれています。後日紹介します。

「キノコとはどんな生物か?」「どんな役割を持つのか?」について簡単に触れて見たいと思います。

「菌類(糸状菌・カビ)」に属するものの中で、植物の種子を造る花の部分にあたる「胞子を造る器官=子実体」が人の目で見ることが出来る大きさ以上のもの(最小0.5mm~1mm以上)を「キノコ」と一般に呼びます。学術用語では「子実体」と呼びます。養分を集め栄養成長している菌糸は土や枯葉や腐葉土、腐朽木の中で生活しており、サイズも極小の10ミクロン前後(1/100mm前後)の菌糸で出来ており、全く見ることはできません。繁殖のために子実体(キノコ)を外部に造る時だけ見ることができます。即ち、植物でいう花を咲かせる時期に花しか見ることの出来ない生物なのです。20世紀の当初は、「キノコ」は植物の世界に属する下等植物でした。現在は、キノコを含む「菌界」は「動物界」や「植物界」と同列に位置付けられ、「キノコ」は「菌界」で最も進化した菌類です。 

8~12億年前に誕生した菌類が、陸上に登場したのは4億8千万年前に植物と一緒に上陸したと云われています。当時の赤く乾いた岩石主体の地において、菌類は、水分とリン等のミネラルを植物に供給する一方、植物からは光合成により合成した有機物を得る相利共生関係(内生菌根菌)を築きました。その関係は現在にも継続しています。植物は菌類の助けにより維管束を発達させ天に向け巨大化したのです。

・「植物は生産者」

・「動物は消費者」

・「菌類は分解者」

と云われますが、少し誤解を招く表現です。菌類は菌糸から分解酵素を排出してその分解物から栄養分を得る生き方をしていますが、当時は、ミネラルや水の吸収には貢献していますが、体をつくる有機窒素化合物(リグニン等)を分解して吸収する能力は殆ど持ち合わせていなかったのです。分解者としての植物や動物を腐朽する能力は欠けていたと考えられています。石炭があるのはそのお陰だと云われます。森林の有機物を効率よく分解する菌類・キノコ(サルノコシカケ類やシイタケ、オチバタケ等の腐朽・腐生菌類のきのこ)に進化して出現したのは、ジュラ紀~白亜紀(2~1億年前)と云われています。木材の強度を支えるセルロースやヘミセルロース(鉄筋コンクリートの鉄筋の役目)とリグニン(コンクリートの役目)を分解(白色腐朽、褐色腐朽、軟腐等)して炭酸ガスと水に分解する「森の掃除屋さん」(分解者)の登場です。日本の暖温帯~冷温帯の主要樹林であるカバノキ科・マツ科・ブナ科を支える「外生菌根タイプのキノコ」が誕生して進化したのは約1億年前の白亜紀です。菌糸体が多数・多種の樹木の根と繋がり樹木の養分・水分の調整役を担っているのは、当に「キノコは森をつくる」にぴったりです。マツタケ・テングタケ・イグチ・ベニタケ等の外生菌根菌の登場です。植物の上陸と一緒に上陸した植物の根の細胞内で生活する内生菌根菌と細胞外で共生する外生菌根菌が、木本・草本植物の9割以上と相利共生関係を築いています。特に「キノコをつくる外生菌根菌」は温帯を構成する照葉樹林や広葉落葉樹林の主要樹種である「ブナ科(カシ・コナラ・クヌギ・ブナ・ミズナラ等)やカバノキ科(シラカバ・ダケカンバ等)やマツ科(アカマツ・カラマツ・シラビソ・ツガ・モミ等)」との強い相利共生を進化させています。マツ科以外のスギやヒノキ等の針葉樹は内生菌根菌と相利共生しています。現在の日本の領土の79%を森林が占めていますが、菌根菌あってこその森林形成であり、日本の自然植生は外生菌根菌がコントロールしていると云っても過言ではありません。キノコには「樹木を育てて、森を作る」(菌根菌)大きな役割を果たす一方で動物や植物のリターを分解する「森の掃除屋さん」(分解菌)の役割を果たしているのです。キノコには大きく分けて2つの役割があります。「森をつくる菌根性キノコ」と「森の掃除屋の分解キノコ」です。「分解(腐生)菌のキノコ」について次回詳しくお伝えしたいと思います。

今回は、団地内の中央公園のシラカシやマテバシイのブナ科の樹木と外生菌根共生の関係にある「テングタケ」の紹介です。

写真*「テングタケ」 2017.10/17 撮影

数年前まで団地にお住まいだった二宮夫人と8号棟の三野夫人が昨年(2017)の10月17日に見つけたものです。3本生えていました。最大のキノコの傘の直径は何と22cmx23.5cmもありました。「テングタケ」としては今迄観察した中では最大級です。

学名「Amanita  pantherina」属名はトルコ南部のAmanus山脈の)+小種名は豹の意。傘のイボイボが“豹(柄)似たアマナス山の形のキノコの意。

和名「テングタケ」=「天狗茸」 「人を殺す毒の恐ろしさを天狗に例えた説」や「森の奥深く天狗の棲む場所に生える茸の説」など多説ある。

毒成分は「イボテン酸」や「ムスカリン」をはじめとする複合毒成分を有し、消化器系・神経系毒・蓄積毒と多岐に亘っています。非常に厄介な毒キノコです。

団地内で見られたのはビックリでした。しかも巨大でした。

 キノコの菌糸は髪の毛の約1/10以下の細さで植物の細根の約1/200の細さです。植物の根に比べ、同じ容量であれば、約4万倍の表面積を持つことになります。植物の細根では不可能な細部に伸長・侵入し、菌糸表面から分解酵素を排出し、酵素分解により得た「リンをはじめカリウム等の必須ミネラル」や「水分」を植物へ提供する他、根を包むように取り巻いた外生菌糸は植物根の病害虫に対する免疫力を高めています。一方で植物からは光合成で得られた炭水化物等の有機物の供給を得る相利共生の関係になっています。「テングタケ」はそのタイプ「外生菌根菌」の代表的キノコです。

食べると下痢や嘔吐、幻覚などの症状を引き起こし、最悪の場合は、意識不明に至るそうです。毒の成分は「イボテン酸」、うまみの成分でもあります。同じ成分を含む「ベニテングタケ」よりも強い毒を持つキノコです。

参考に「ベニテングタケ」の写真も貼付しておきます。2007.10/3撮影


 ヨーロッパでは、「幸福を呼ぶキノコ」として人気であります。「シンデレラと7人の小人」にも登場します。主な毒成分は「イボテン酸」や「ムスカリン」などです。幻覚や腹痛、嘔吐、下痢等の消化器系中毒を起こすと云われます。

長野県の上田地方のある部落では、塩漬けにして正月に食すと云います。どうしてその地方だけ食用になるのか?明快な答えはありません。小生もちょっとだけ食べてみたことがあります。イボテン酸によるものか、実に美味しかったです。しかし、毒キノコで、蓄積毒もあります。真似しないで下さい。 

テングタケの仲間は全て外生菌根菌です。イボテン酸を含むせいか癖もなく大変味が良いと云われますが、「ドクツルタケ」「タマゴテングタケ」など必ず死に至らしめる猛毒のキノコが数種含まれます。「一度は美味しく食べられますが、二度と食べられないキノコ達」です。何故か?「ボォーと生きてんじゃネ~よ!…二度目は死んでるから喰エネーんだよ!」クワバラ!クワバラ!

以上

追記

 「マツタケ(外生菌根菌)」が栽培可能に・・・? 「エッ・・・?」

 「腐生性キノコ」は培養菌床(餌)の解明と温度と湿度の管理設定できれば、簡単に菌床も手に入り易く培養できます。しかし、「菌根性のキノコ」の栄養源は活きた木との根を通しての複雑なやり取りが解明できず、人工培養は叶えられていません。シイタケにマツタケの匂いを付けたニセ松茸事件や、大型ブナシメジのホンシメジ詐欺事件が過去には何度もありましたが、菌根性キノコの栽培の実現はしておりません。

ところが、近年になり、ホンシメジの系統の中に、腐生性の高いレースが見つかり、「ホンシメジ」に近い商品の培養が可能になりました。さらには、菌根性の「松茸」に近い小型の「バカマツタケ」の培養に成功したとのニューズが今年の9月にマスコミに発表されました。兵庫県の一部上場企業の「多木化学」です。本当なら大変ビッグなニューズです。因みに「マツタケ」がアカマツやツガ等の針葉樹に共生するのに対し、「バカマツタケ」は、コナラ等の広葉樹と共生するキノコです。松茸より発生時期が早いことから、馬鹿に早い松茸と云う意から「バカマツタケ」という名がついたそうですが、匂いは松茸に劣りません。千葉県民の好きなキノコです。実現して欲しいですね!

それでは、次回まで。


大宮 今羽町団地 OK会

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