―自然が創造する芸術―
追加投稿:YZ
団地の柿の葉っぱが真っ赤に紅葉し、落葉が始まった。一枚一枚の柿の葉の紅葉の「赤色」は実に綺麗で同じ葉は一枚もない。それが集まり見事な自然芸術を創造し、散っていく。サトウハチロウの童謡「小さい秋見つけた」は「ハゼノキの紅葉」をヒントに作詞されたそうである。
写真1 柿の葉の紅葉と落葉2018.11/20
「絵にも描けない美しさ」。竜宮城ではあるまいが、自然界には、人間の予測を遙かに超えた美しさがある。
「日の出」、「沈む夕日」、「満天の夜空」といった天体の美に加え、特に自然の営みである「萌黄色の春」、「紅葉の秋」は、四季の国・日本だからこそ味わえる「自然からの贈り物」であり、「絵にも描けない美しさ」であると思うのは、小生ばかりではないだろう。
『かくばかり もみづる(*1)色の 濃ければや 錦たつたの 山といふらむ』(後撰和歌集)《意味?;小生訳》「秋口の霜や時雨の冷たさに揉み出されるようにして濃く色づいたモミジの紅葉の鮮やかさこそ、まさに錦織りなす竜田山(万葉集に詠まれた生駒山系の紅葉の名勝地)とでも言うのであろうか。」*1(「揉み出づ」⇒「もみづ」⇒「もみじ」)
関東にも紅葉(もみじ)前線が到来し、埼玉県の平地では11月の下旬から12月上旬が紅葉の見頃である。気象庁は、春の桜前線同様に、「モミジ」の標準木を設定して、その樹の8割が色づいた日を「紅葉日(*2)」、8割が落葉した日を「落葉日(*2)」と定め、北海道から鹿児島県までの紅葉の見頃を予想して、「紅葉(もみじ)前線予測」を発表している。南北に長い日本列島では、春の桜前線の北上と異なり、10月初旬の北海道の大雪山を手始めに日本列島を南下し、12月初旬に漸く鹿児島県に到達するのである。見頃期間は紅葉開始後10~15日程度と結構長い。残念ながら、沖縄県は、亜熱帯に属する気象条件に加へ、紅葉しない照葉常緑樹が多いことから紅葉は見られない。
ところで、「紅葉」とは葉が赤色に変化するだけでなく、葉の色が変色することも指します。そのため、黄葉や褐葉も紅葉です。秋の紅葉について簡単に整理してみたいと思います。
紅葉には、大きく分けて1赤く紅葉するタイプ 2黄色く黄葉タイプ 3褐色に変わる褐葉タイプの3つのタイプがあります。
写真2紅葉 左;紅葉タイプ 中央:黄葉タイプ 右;褐葉タイプ(2018.11/15撮影)
1、赤く紅葉するタイプ
紅葉と云えば、やはり「赤」の紅葉である。世界三大紅葉樹は「ニシキギ」、「スズランノキ」、「ニッサボク(ニッサシルバチカ)」です。いずれも鮮やかな赤に紅葉するタイプです。
イロハモミジ・オオモミジ・ハナノキなど多くのカエデ類、カキ、ガマズミ、ヌルデ、ナンキンハゼ、ナナカマド、ハゼノキ、ブルーベリー、ナツハゼ、コケモモ等も綺麗な紅葉樹です。
写真3赤い紅葉(2018.11/15)
何故、何の為に赤く紅葉するのか?未だ十分な解明はされていません。
有力な仮説として、落葉性を手に入れた樹木(主に広葉樹)は、秋に入り、日照時間が短くなり、温度も下がり、光合成の効率が低下するとアブシジン酸などの植物ホルモンが、葉の細胞の老化を促すと共に、葉を構成している有機物のうち養分として再利用できるものを落葉前に回収し、その養分を次の春の芽だしに備える作業を行う。例えば、光合成を促す触媒として作用していたタンパク質は老化に伴い、アミノ酸または窒素に分解され篩管を通じ樹体に回収される。光合成を行う葉緑体のクロロフィル(葉緑素)は、活発に光合成を行っている時は常に分解・再生産を繰り返しているが、葉緑体が壊れ、光合成の必要なくなると再生産が抑制され、分解され、徐々に消失していく。この際、クロロフィルは主に青色の光を吸収して、生物に最も有害な活性酸素をつくる。この間は植物の細胞組織の破壊の危険に晒される(光酸化傷害)ことになります。赤色の色素を持つアントシアニンは青色の光を良く吸収する。抗酸化物質のポリフェノールの一種であるアントシアニンのお蔭で青い光が断たれるために有害な活性酸素の発生が抑えられ翌春の萌芽の養分を取り込み蓄えることが出来ると考えられている。
葉柄の基部に離層が形成されると、葉に蓄積していたデンプンがブドウ糖や蔗糖に分解されると紫外線等の関与により、それまでに存在しなかった赤い色素のアントシアニンがつくられる。夏場の光合成活性による葉へのデンプンの蓄積残量が多い程鮮やかな紅葉になると云われる。葉緑素が分解されるとアントシアニンの赤が目立って紅葉となる。特に、秋の紫外線の増加や一日の昼夜の急激な温度差が鮮やかな紅葉を促します。
尚、写真2の左端と写真3の右の写真の左端に注目して戴きたいと思います。暗濃紫赤色の葉が見られます。これはクロロフィルの分解とアントシアニンの生産が、葉の表面側の柵状組織の部分から先に起るため、表面側のアントシアンによる紫外線からの保護により、葉の奥の海綿状組織に分布するクロロフィルの光合成機能が守られている「紅葉メリット」と考えられています。葉の表面のアントシアニン赤色と深部のクロロフィルの緑色の混生の暗濃紫赤色なのです。
離層は植物ホルモンのオーキシンと拮抗関係にあるエチレンの関係によります。秋になりオーキシンが減るとエチレンにより、葉柄の基部に離層を形成します。最初に導管を断ち水分の無駄な蒸散作用を防ぎます。葉からの養分を充分取り込み終えると篩管を断ち落葉に至ります。落葉は老廃物や汚染物質を排出する作用でもあります。
尚、赤く紅葉する仮説にはアブラムシの忌避データから赤く紅葉するのは「ハンディーキャップ信号(*3)」として進化したとの説もありますが言葉の紹介に留めます。
また、落葉する葉からは養分は殆ど翌年の萌芽に向け収奪されるため、従来の「紅葉に積極的に養分を蓄えて落葉する自然施肥効果説」は、現在は否定されています。
2.黄色に黄葉するタイプ
光合成の旺盛な葉にはクロロフィルが多量に含まれているため、緑色に見えます。葉の中にはクロロフィルだけでなくカロテノイド類の黄色の色素(クロロフィルの1/8程度)が含まれています。落葉期、上述した反応によりクロロフィルの緑色が消え、カロテノイドの黄色が見えるようになるのが「黄葉」です。カロテノイドの働きは、クロロフィルの光合成補助としての補色素の役割と、クロロフィルの分解により発生する活性酸素を抑制する抗酸化の役割を併せ持っています。
尚、カロテノイド由来の誘導体のキサントフィルが主なる黄色の色素です。樹種による含有量の違いが変葉時の黄色の発色の違いになっていますが、葉の変色は、先ずは、クロロフィルとカロテノイドから始まる現象です。
黄葉はイタヤカエデ、イチョウ、アオギリ、アオハダ、ヤマイモ、カラマツ等が綺麗です。
写真3黄色い黄葉(2018.11/15) 色々な黄葉 イチョウとヤマイモの黄葉
3.褐色に褐葉するタイプ
アントシアンやカロテノイドなどの色素が分解され、タンニンなどから複雑に酸化と重合によって褐色の色素「フロバフェン」が生成されると云われますが、諸説あり、その正確な構造も不明です。リンゴを切断すると切断面がしだいに褐色になって行く現象と同じと考えられています。
尚、フロバフェンの働きについては、判っていません。落葉前の最後の変葉システムです。
褐葉はブナ、ミズナラ、ケヤキ、クヌギ、コナラ、トチノキ、 カシワ、ムクロジ等があります。
写真4褐色の褐葉(2018.11/15)
美しい紅葉になる条件について、一部上述していますが、何と言っても、如何に多くの糖分が葉に蓄えられたかと、葉緑体がいかに早く分解されるかにかかっていると言えます。日中は温暖で夜間に急激に冷え込むとククロロフィルの分解は促されます。夜の気温が高いと昼に蓄えた糖分が呼吸などに使われてしまうため、昼と夜の温度差が大きいというのがポイントです。また、空気が澄んでいて、葉が充分な日光と紫外線を受けるということも必須条件です。
日本は沖縄県を除くと、温帯モンスーン気候で四季の変化に恵まれた国です。世界の先進国の森林率の平均30.8%に対し、日本は国土の68.5%が森林です(2015年現在)。国土3,770
haの内の約2,500haが森林で、内1,000haが人工針葉樹林、250haはその他竹藪等雑地ですが、森林の50%、国土の約30~35%弱が紅葉対象です。世界的に最も紅葉の綺麗な国です。
身近にも京都に劣らぬ紅葉の名所があります。関東30選にも選ばれている長瀞溪谷(長瀞町)や城峯公園(神川町)は峠を過ぎてしまいましたが、武蔵野森林公園(滑川市)、喜多院(川越市)、嵐山溪谷(嵐山町)、有間溪谷(飯能市)などは、今が盛りです。
今回、「紅葉」についてまとめるあたり、感性が鈍っている自分に気づかされました。
唯々、絵にも描けない不思議な美しさと素直に感動した頃が懐かしくなります。原理やメカニズムを知るにつれ、さらに知りたい欲望に駆られる。人間は欲の深い生物です。その分、生物としての感性が失われていく自分が憐れです。この年になると、不思議は不思議の儘、知らぬが華・・・。少年時代の感性を取り戻したい昨今です。
子供の頃の感性に戻って、皆様!世界で最も美しい日本の紅葉を、ご堪能下さい。
(特別寄稿)以上
(*2)参考 「イロハカエデの紅葉日と落葉日(埼玉県熊谷気象台)」
2017 2016 2015 2014 2013 2012 平年 最早年 最晩年
紅葉日 12/04 11/26 12/04 11/29 11/27 12/03 11/26 1986.11/04 2006.12/11
落葉日 12/15 12/06 12/21 12/18 12/20 12/12 12/09 1955.11/26 2015.12/21
(*3) 参考「ハンディーキャップ信号」
一見非適応的な(個体の生存の可能性が減少するような)形態や行動の進化を説明する理論。生物が発する信号に関する理論(シグナル理論)の重要な概念でもある。1999年に北半球の262の紅葉植物とそれに寄生するアブラムシ類の関係が調べられ、紅葉色が鮮やかであるほどアブラムシの寄生が少ないことが発見された。紅葉の原因となるアントシアン(赤色素)やカロテノイド(黄色素)はそれを合成するのに大きなコストが掛かるが、直接害虫への耐性を高めるわけではない。またアブラムシは樹木の選り好みが強く、一部の種は色の好みもあるとわかっている。そのため、紅葉は自分の免疫力を誇示する「ハンディキャップ信号」として進化した、つまり「十分なアントシアンやカロテノイドを合成できる自分は耐性が強いのだから寄生しても成功できないぞ」と呼びかけているとみなせる。
但し、アブラムシ以外の害虫での立証データはない。
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