―キノコは森の掃除屋さん 分解菌(腐生菌)―
投稿 YZ
「オオシロカラカサタケ」の紹介です。一昨年(2016年)9月19日、8号棟の三野夫人が団地内の中央公園の草叢(芝生)で見つけた大きなキノコです。
*写真「オオシロカラカサタケ」写真提供 大久保 彦氏撮影(埼玉県菌類レッドデータ委員)
学名;「Chlorophylium molybdites」 属名は葉緑素の意(胞子紋(ヒダ)が汚緑色~オリーブ色による事)種小名は鉛色の意 鉛色のヒダが汚緑色~オリーブ色のキノコを指す。
和名;「オオシロカラカサタケ」(大白唐傘茸)大型で傘が白い「カラカサタケ」に似たキノコの意。
ハラタケ科 オオシロカラカサ属に属し1属4種からなります。夏場~初夏に草地に発
生して子実体(キノコ)の大きさは「傘」は5~30cm、柄10~25cmになる「腐生分解
菌」です。強い消化器系中毒を起こす「毒キノコ」ですが、死亡に至った例はありません。
南方系のキノコと云われ、以前は、日本国内でも沖縄県や小笠原地方でしか見る事ができませんでした。「オオシロカラカサタケ」は、西日本、東海地方と北上し、数年前から、関東・さいたま市でもよく見かけます。亜熱帯性の「オオシロカラカサタケ」が、地球温暖化により、北上しているキノコだと断言している研究者もいます。小生が初めて見たのは、2004年群馬県の館林市でした。ハウス施設内で腐植土壌からの発生で巨大でした。九州から未完熟のバーク堆肥と一緒に持ち込まれたものと思われました。地球温暖化による北上中のキノコだとは思いませんが、少なくともヒートアイランド現象が影響しているのではと思っています。都会の近郊のヒートアイランド現象の起っているスポットでの発生が多く、館林もヒートアイランドで有名な街です。
菌類と植物との共生においては、根の細胞における「内生菌根菌」の他、菌類と緑藻・褐藻類が共生する「地衣類」があります。また、最近注目されているのが、植物の生きた組織に住む「内生菌(エンドファイト)」の存在です。感染した植物から棲家と光合成産物を得た「内生菌」は宿主植物の成長促進、侵入病害の抵抗力、環境ストレス耐性力などの免疫力を付与する相利共生関係にあることが判ってきました。「内生菌」が衰えると成長や免疫力の低下による病気感染や生育不良が起ることが確認されています。内生菌の殆どは子嚢菌で僅かに担子菌が含まれます。人間でも「内生菌」が人間の免疫力を高めてくれているのは同様です。「菌類」の見えない影の力に人間は守られているのです。年をとって免疫力が落ちるのは「内生菌」の減少と衰えです。
一方では、同じ菌類でも植物(動物・菌類)に感染寄生し病気を引き起こす「病原菌」もいます。既知の菌類約10万種の約3割が病原菌として知られています。子嚢菌・担子菌・ケカビ・ツボカビなど広い菌類が関わっています。植物に寄生して、植物(動物・カビ)の養分の収奪や、病気で殺すのも「菌類」です。「植物」へ「寄生するキノコ」と云えば「ナラタケ」、「オニナラタケ」、「ナラタケモドキ」などです。「キノコ」に「キノコ」が寄生する例は「ヤグラタケ」や「タケリタケ」。昆虫に対して菌類が寄生・殺生する例は「カメムシタケ」、「オサムシタケ」、「サナギタケ」、「クモタケ」等です。漢方薬の不老長寿の「冬虫夏草」です。「子嚢菌類」による昆虫(幼虫・成虫)の「病死の姿」です。
*「ヤグラタケ」が「クロハツ」に寄生(キノコにキノコが寄生する例) 2018.9/23撮影
黑く見えるのがベニタケ属の「クロハツ」 白いのがクロハツに生えた「ヤグラタケ」。ヤグラタケの「分生子」(黄土色)も見られます。
植物・動物・微生物の遺体(リター)を分解するのも菌類です。「分解菌」(腐生菌)と呼びます。「生物の遺体(リター)」を棲家に、餌として有機物の無機化を担う『掃除屋』です。多様なリター資源基物の種類によって草地のサッチや落葉及び腐葉土の分解菌は「落葉分解(腐生)菌」、木材を分解するのは「木材腐朽菌」、土壌中の根系を分解するのは「根分解菌」と呼びます。「オオシロカラカサタケ」は「落葉分解(腐生)菌」です。「草地サッチ(残渣)」や「未完熟腐葉土」を基物にして、有機物を無機物に還元する働きをしています。まさに「森や草地の掃除屋さん」です。担子菌類の「ハラタケ」の仲間の他に「クヌギタケの仲間」、「ホウライタケの仲間」、「モリモカレバタケの仲間」それに一部の子嚢菌類の「テングノメシガイの仲間」なども「落葉分解菌」です。
*「テングノメシガイの仲間」2017.8/20.撮影今羽町団地内
分解機能は基物により分解しやすさは異なりますが、分解過程は同様です。落葉や木材などの植物リター基質は「リグニン」、「ヘミセルロース」、「セルロース」の構成により出来た高分子有機化合物です。落葉や草のサッチでは重量の6~8割、木材では9割を占めています。残りは「キチンやメラニン」などの菌糸由来の「有機物」や「腐植酸」です。これらを菌糸の先端から分泌する細胞外酵素により分解して低分子化し、さらに、最終的には無機化するプロセスですが、複数菌の複数の酵素系反応の繰り返しで無機物への分解を成立させました。リグニンは特に難解で、進化を重ね、リグニンが分解できるまでには1億数千万年を要したと云われます。地上において、唯一菌類のみが成せる機能です。分解スタイルにより「糖依存菌」、「リグニン分解菌」、「セルローズ分解菌」などに分類されます。現在の栽培キノコの全てが分解菌タイプです。
現在のキノコ栽培の生産量はH27年で以下の通りでした。
1位;エノキタケ 131,683トン 2位;ブナシメジ 116,152トン
3位;生シイタケ 68,285トン 4位;マイタケ 48,852トン
5位;エリンギ 39,692トン 6位;ナメコ 22,897トン
7位;ヒラタケ 3,263トン 参考)松茸(外生菌根菌) 71トン
「分解(腐生)菌キノコ」は培養菌床(餌)の解明と温度と湿度の管理設定できれば、簡単に菌床も手に入り易く培養できます。
日本原種の「エノキタケ」(エノキなど)、「ブナシメジ」(ブナ)、「シイタケ」(ナラ・シイ)、「マイタケ」(ブナ・ミズナラ)、「ナメコ」(ブナ・ミズナラ)、「ヒラタケ」(ナラ・ブナ・エノキなど)の「木材腐朽性のキノコ」です。いずれも「白色腐朽菌」でセルロース・ヘミセルロース・リグニンを分解する能力をもったキノコです。(括弧内の樹種)を基質の原木栽培では、天然に近い品質のキノコが得られますが生産性が安定しないことや、基質の木材不足、高度の技術を要することから、研究が進み、菌床栽培に遷っています。大手企業が加わり大規模生産が行われ生産量が大きく伸びています。
「オオシロハラタケ」は毒キノコですが、同じ仲間の食菌の「セイヨウハラタケ(マッシュリューム)」は完熟堆肥を基質にして世界中で生産されています。日本人は「マッシュリューム」は、嗜好に合わないのか需要は伸びていません。
そう云えば、堆肥や糞を好んで発生する「マグソタケ」、「トフンタケ」と云う名前の「糞生キノコ」(動物の糞にだけ発生する腐生菌)があります。「トフンタケ」は厄介なことに、「マジックマッシュリューム(幻覚性キノコ=麻薬指定)」と云われ、キノコの名前を知って採ると逮捕されます。団地の芝生にも別の「マジクマッシュリューム(幻覚キノコ)」が見られます。 「お気をつけなすってチォ~戴!」
以上 次回まで
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