コラム:団地の木と草とキノコ 木本4 (完)珍しい「イチョウ」の話

―おまけ編「裸子植物;イチョウ」―

投稿YZ

「おまけ」として珍しい「オハツキイチョウ(銀杏)」を見つけましたので裸子植物の紹介と併せ採り上げます。

団地にお住いの方で、「イチョウ」を知らない人や「ギンナン」を食べたことの無い人は皆無だと思います。中国で見つかったイチョウが鎌倉時代に日本に渡り、各地の神社や公園、街路に植えられています。しかし、「絶滅危惧種ⅠB」のカテゴリーにある植物です。現在、「自生しているイチョウ」は見つかりません。現存のイチョウは人の手が関与して維持されているものばかりだと云われています。

写真1 短枝につく銀杏とイチョウの葉 2018.10/25撮影

 

和名の「イチョウ」は漢字で「銀杏(イチョウ・ギンナン・ギンキョウ)」とか「公孫樹(イチョウ・コウソンジュ)」の字が宛てられます。学名は、「Ginkgo biloba」です。「江戸時代にオランダ東インド社の医者として来日したドイツ人の医学者ケンペルが学名を申請する際、属名をGinkyo()にすべきがyをgに読み間違えたとのエピソードは有名です。因みに、種小名 biloba はラテン語による造語で、「2つの裂片」の意味で、葉が大きく2裂すること(若木や徒長枝ではよく深裂するが…?)を指したと云います。

尚、「公孫樹」とは「公」は祖父の尊称で「祖父の代に植えた樹が孫の代にやっと実を結ぶ樹」と云う意です。確かに、イチョウはかなり大きくならないと種子を着けません。

現在、陸上の植物数は約25~27万種と云われ、圧倒的に被子植物が多く約23~25万種を占めていると云われる。裸子植物は800~850種と少なく、他はシダやコケ類です。裸子植物は、ソテツの仲間、イチョウの仲間と球果類(マツボックリを作る針葉樹)及びグネツムの仲間の纏まりです。

「イチョウ」の分類上の戸籍位置は「種子植物門(裸子+被子植物)」の「裸子植物亜門(ソテツ綱、イチョウ綱、球果綱(マツやスギ等の針葉樹の仲間)、グネツム綱)」の「イチョウ目」・「イチョウ科」・「イチョウ属」・「イチョウ」となります。寂しながら、「1綱」・「1目」・「1科」・「1属」・「1種」の絶滅寸前の植物です。化石植物と云われる所以です。

胞子で繁殖する胞子植物のシダ類が巨樹となり隆盛したのは、古生代です。地下に埋蔵された石炭の原料です。原始種子植物として、シダ種子植物が3億9千万年前に誕生しましたが絶滅してしまいました。本格的な種子植物として裸子植物が誕生したのは、その1億年後の古生代の後半のペルム紀で2億9千万年前でした。「裸子植物」(ソテツやイチョウの仲間と針葉樹)が中生代の白亜紀の半ばにかけシダ類に代わり隆盛を誇りました。まさに恐竜と共に栄えた植物だったのです。イチョウも同様で、化石から30種以上の種類が存在し隆盛していたようです。北半球全土で隆盛繁栄していたイチョウも、他の裸子植物同様に気象環境の変化により衰退の一途を歩み、3500万年前からの温度の低下や、200万年以降の氷河期の氷期・間期の繰り返しに曝され、やっと、1種のみが、中国で生き延びたと云われます。その自生地も現在は見つかっていません。イチョウは、胚や胚乳が硬い殻に覆われており外種皮の発芽抑制物質の存在もあり人手にかからないと殆ど発芽できません。イチョウの播種散布に恐竜やその後のマンモス等の大型草食動物が関わっていた可能性も充分あります。糞には肥料分と適度な湿気(保湿・保温)があります。「食べられて外種皮が外された種子は、遠くに運ばれて、糞と一緒に排出(散布)された種子は発芽する事が出来、広域繁殖する仕組みを獲得した。」とするのは満更有りえないことではなさそうです。恐竜やマンモス等の全滅により、そのシステムが壊れたことが、イチョウの衰退にも繋がります。

一方、中生代のジュラ紀の末期の1億5千万年前に登場した「被子植物」は、昆虫との共進化により白亜紀の半ば以降、風媒に依存する裸子植物に代わり繁栄し、現在に至って隆盛しています。

「裸子植物」と「被子植物」関係について触れたいと思います。胞子より安定性と耐久性に優れる種子による繁殖力を手に入れた両植物ですが、DNAによる分岐体系解析では、裸子植物の一部から被子植物が誕生したとする単系説より、両者の誕生の共通の祖先は別にあり、既に絶滅してしまったと考えられています。

受精のシステムが裸子植物は風任せの「風媒花」に対し、被子植物は、昆虫との共進化において、受精度の確実度が高い「虫媒花」に発展させ、花の構造を進化させ、花弁や顎の他に「胚珠を包み保護する心皮(子房)」を手に入れました。被子植物でも、イネ科のようにエネルギー効率から退化し風媒花になった例外はありますが、心皮は必ずあります。「裸子植物のイチョウ」と「被子植物のムクロジ」の実を比較してみます。一見同じに見える実も構造が全く異なるのです。裸子と云われる通り種子(胚珠)を裸に剥きだす裸子植物と被子と云う通り種子(胚珠)を心皮(子房)で包んでいる被子植物との違いが解ると思います。

下の写真2の左が裸子植物の「イチョウの種子」 が被子植物の「ムクロジの果実」です。

写真2 2018.10/25撮影


「イチョウ」は胚珠(種子)を着ける花軸の先が襟(写真4参照)となり、普通は2個の胚珠をカップ状に包みますが、胚珠は露出しています。裸子植物と云われる所以です。2個の胚珠は2個とも受精して2個共種子になることもありますが、多くは上の写真通り1個は不稔になり、1個の胚珠だけが稔って種子になります。黒い粒が見えるのが不稔になった胚珠の残骸です。種子の構造は3層の種皮が種を包む構造になっています。臭い液果状に見えるのが上種皮、その内側の白い硬い核の部分が中種皮、さらに内側の緑の部分が種子(胚・胚乳)でそれを包む薄皮が下種皮です。胚珠が受精し種子になったものです。

「ムクロジ」の子房は3室の心皮に仕切られています。心皮は葉が進化して胚珠を包み保護する器官で、ムクロジは3枚の心皮により子房を形成しているのです。一般にその内の1つの胚珠だけが稔り、2個の内皮の中の胚珠は不稔で生長がストップします。写真で果柄の付根に見える2裂片の残骸がそのものです。実った液果状のものが心皮の変化した「果皮」です。果皮の下に羽根つきでご存知の硬い黒い殻がありますが「種皮」です。その中に「種子(胚乳・子葉・胚)」が収まっているのです。

「イチョウの外種皮」と「ムクロジの果皮」は上記の通り液果状でよく似ていますが全く違うものなのです。裸子植物と被子植物の種子の違いをご理解いただけたと思います。

裸子植物においては、ソテツ類、イチョウ類、球果(針葉樹)類、グネツム類は単系統だとされています。従って、「イチョウ」は「ソテツ」に似た形質も「針葉樹」に似た形質も併せもっています。胞子植物から種子植物へ進化した裸子植物の進化の過程で、「精子」による受精が存在し、ソテツ類に併せイチョウも「精子による受精」が行われています。針葉樹では胚珠への「花粉の発芽管による受精」へと進化しています。また、一般シダ類は配偶体(前葉体)が雌雄に分かれない同型胞子ですが、進化したシダ類は雌雄の大小の胞子を形成しました。雌雄の誕生です。その大胞子(雌性配偶体)と小胞子(雄性配偶体)の形質を胚嚢(雌性配偶体⇒胚嚢)・花粉粒(雄性配偶体⇒花粉粒)として継いで種子植物は進化しました。裸子植物の中で、ソテツとイチョウは雌胞子体(雌個体・雌株)は大胞子を作り、雄胞子体(雄個体・雄株)は小胞子を作る「雌雄異株」となりました。針葉樹では雌雄の器官が胞子体(植物体)につく有性生殖体に組み込まれて「雌雄同株」となっています。一方でイチョウは、「多髄質」のソテツと異なり、「並列維管束で二次肥大成長し年輪を形成できるシステム」を針葉樹と同様に手に入れました。葉は「二叉分岐」の広葉状ですが、起源はラッパ状の「管状葉」とされ、針葉樹に近いと云われています。確かに扇状のイチョウの葉の左右の縁はピッタリ合って「管状葉」を彷彿させます。筒状ラッパ葉の縁の切れ込みが深まり、やがて開葉し、光合成の効率の良い現在の「扇型広葉形」に進化したのは、化石でも裏付けられています。ラッパ葉は、先祖返りとして現在でも稀に確認されています。

今年の10月15日に、珍しい「オハツキイチョウ」を見つけました。

写真3 発見した「オハツキイチョウ」2018.10/15撮影


   日本で27本しか見つかっていません(2011年現在)。いずれも巨樹です。(巨樹とは胸高の幹周が3m以上のものです。)28本目の大発見です。胸高幹周3m65cm、樹高30m超のイチョウですが、「オハツキイチョウ」は、普通の形状の銀杏数百~千個当たり1個の割合で見られます。発見日は、今年(2018)の10月25日でした。

「オハツキイチョウ」は葉の縁に種が着いたものです。原始的イチョウの種類の胚珠は、葉についていて柄軸と葉とが共通であったことを証明していると云われるものです。「葉の柄と葉身」と「襟のついた柄軸」を比べる(写真4)と、「襟の部分」は「葉身の変化したもの」と考えられます。「オハツキイチョウ」と「柄軸の襟の部分」を見比べるとなるほどと思います。「オハツキイチョウ」は襟の部分が先祖返りして「葉化」したことが窺えます。


写真4 「柄軸の襟」と「イチョウ」と「オハツキイチョウ」の比較 2018.10/25撮影

 ↑ 柄軸の先の襟(種子との接点)

↑ 標準のイチョウ(種子) 柄軸  オハツキイチョウ


「オハツキイチョウ」の在処は、所有者の意向から、所在地を明かすことはできません。

しかし、意外なところで発見できるかも知れません。

銀杏が落ちる今頃が「オハツキイチョウ」の見つけるチャンスです。銀杏の傍らに、「オハツキイチョウ」が落下してくるかもしれません。

よく見られる「乳イチョウ」についても触れてみたいと思います。

「乳イチョウ」を見ておられる方は多いと思います。古木の枝や幹から垂れ下がる様は「垂乳根イチョウ」、「乳根イチョウ」と呼んで信仰の対象にもなっています。しかし、この現象はイチョウの雌雄には関係なく、養分の関係から、むしろ雄木に多いとの報告があります。「乳イチョウ」は、根を出すこともあれば、枝に変化することもあるそうです。小葉シダ類がもつ特殊な器官「担根体」ではないかという学者もいます。「担根体」とは、根でも枝葉でもない構造で先端が根にも枝葉にも変わる不思議な器官です。

写真5「乳根」     

http://www.geocities.jp/kinomemocho/image/icho_osu11.jpg (日比谷公園の銀杏)

  ところで、銀杏の花言葉の一つは「長寿」だそうです。団地の高齢者の皆様の幸運を祈っています。

「木本」については今回で完了します。次回からは「キノコ」編です。


大宮 今羽町団地 OK会

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