投稿;YZ
近年、モクレンの園芸交配種「マグノリア」のブームがありました。黄色いマグノリアが特に人気となりました。マグノリアの香水(タイサンボクの芳香の精油)も発売され、トムクルーズ主演の映画「マグノリア」や楽曲も出ました。モクレン科モクレン属の学名「Magnolia」に因むもので、モクレン科の属名をイメージにモクレン属の交配品種を「マグノリア」と称し、売り出したものです。モクレンの仲間の原種は、不思議なことに、日本を含むアジアと太平洋を挟んだ北アメリカとに原産地が二極に限定分布しています。
「マグノリア」のように、属名が商品名にされる例は、西洋で品種改良されたアジサイも属名の「Hydrangea(ハイドランジア)」と称した例、マツバボタンの品種改良したものを「ポルチュラカ」と称した例など数多くあります。
モクレン科のモクレン属(Magnolia属)の植物は、団地内にも沢山栽植されています。ハクモクレン、ベニバナハクモクレン、コブシ、シモクレン、タイサンボクそれに今回採り上げた『ウケザキオオヤマレンゲ』です。何れもモクレンの仲間の原種由来の樹木です。
先回、草木で採り上げた「ドクダミ」と同様、モクレンの仲間は、原始的被子植物(モクレンの仲間は、すべてが木本です。花の構造は、花弁と雌蕊と雄蕊が多数あり、螺旋状に配列する原始的形態を持つ)です。恐竜のいた白亜紀には、既に現在に近い形容をしていたことが化石で立証されています。
白亜紀は、ジュラ紀に主流であった原始的な裸子植物やシダなどが減少し、裸子植物のうちの針葉樹(スギ、マツ等)は現代と同じ形にまで進化しましたが、被子植物が主流に多様化を加速した時代だと云われています。一方で、大陸が激しく移動した時代でもあります。この大陸移動とモクレンの仲間の分布は密接な関係があるのです。
超大陸パンゲアは約3億年前ごろに形成され、約2億年前から分裂を開始したことが分かっています。白亜紀(1億4千5百万年前~6千6百万年まで)になるとパンゲアの北半分のローラシア大陸も現在のユーラシア大陸と北アメリカ大陸が分かれはじめ、1億年前には、大西洋と太平洋にセパレートされたと云われます。アジアから北アメリカが接していた地域に分布していたモクレンの仲間はこの大陸の分裂と移動により地理的に隔離され、アジアと北アメリカの其々の地域で独自の進化を遂げたのです。モクレンの仲間が太平洋を跨いでアジアと北アメリカだけに原産地が分布しているのは、ダイナミックで壮大な地球史を語ってくれているのです。団地内も地球の歴史の植物園なのです。
主なモクレンの仲間の原産地は次の通りです。
〇モクレン科モクレン属(太字 団地にある)
・モクレン 原産地中国
・ハクモクレン 原産地中国
・コブシ 原産地日本(~韓国済州島)
・タムシバ 原産地日本
・シデコブシ 原産地日本
・オオヤマレンゲ 原産地日本
・ホオノキ 原産地日本
・キモクレン 原産地北米
・キャンベリー 原産地ヒマラヤ地域
・タイサンボク 原産地北米南西部
・ウケザキオオヤマレンゲ(ホオノキとオオヤマレンゲの自然交雑種?) 原産地日本?
〇モクレン科オガタマノキ属
・オガタマノキ 原産地日本
・カラタネオガタマ 原産地中国
〇モクレン科ユリノキ属
・ユリノキ(ハンテンボク、チューリップの木)原産地北米
・シナユリノキ 原産地中国
*これらの原種約90種の交配育成した園芸品種を「マグノリア」と称します。
原産地を辿る地球の歴史旅は、大変興味深く、面白いかと思います。
『ウケザキオオヤマレンゲ』が、団地内に一本だけあります。
植物学者牧野富太郎博士により『ウケザキオオヤマレンゲ』は、日本在来の「ホオノキ」と日本在来の「オオヤマレンゲ」の自然交配種と推定されました。しかし、「ホオノキ」と中国・朝鮮半島に分布する「オオバオオヤマレンゲ」との自然交配した雑種だとする説もあり、どちらが正しいかは定かでありません。それでも自然交配雑種で園芸品種ではありません。「ホウノキ」に比べ花も葉も小振りで、高木にもなりません。「ホオノキ」と「オオヤマレンゲ」との中間の形質を受け継いでいます。花は「受け咲き」と云う通り、ホオノキの花のような上向きの花を着け、オオヤマレンゲの様な下向きの花の着き方はしません。凛として品があり綺麗で素敵な芳香を放つ花木ですが、陰樹性が強く、緑地での植栽には、少し適さないようす。植物園以外では、中々見ることが出来ません。団地の珍木『ウケザキオオヤマレンゲ』は、樹勢がかなり弱っており、何時まで見られるか心配です。
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