投稿:YZ
『アカザ』と聞くと「杖」が頭に浮かぶ。杖は木や竹に限定されません。草の杖が最高と云われます。中国での仙人はアカザの杖が必需です。「アカザ(藜」の杖=仙人の杖」といわれています。七福神の仙人の一人「寿老人」も持っています。杖は「長寿の表徴」とされているのです。水戸黄門もテレビドラマの竹杖(孟宗竹の変種:亀甲竹?)とは違い、本当はアカザの杖を愛用していたそうです。松尾芭蕉もアカザで一句詠んでいます。「宿りせん藜(アカザ)の杖になる日まで」・・・。アカザの杖には言い伝えもあります。「アカザの杖で転ぶと三年もたぬ。」とか、「アカザの杖は中風(中気(脳卒中)にならぬ。」とか・・・。「軽くて丈夫なアカザの杖でさえ、ついて転ぶようでは、三年も生きられまい。」、「アカザの杖元はゴツゴツしており、その手への刺激が中風予防になる。」の意らしい。アカザの杖は、木や竹の杖にも劣らぬ強度がある上、軽くて扱いやすい杖の材料ということです。
その『アカザ』ですが、植物に大変詳しい7号棟のN夫人が、10数年前、団地近くの桜並木に播種され、数年間は毎年、落ちた種子が芽を出し、順調に生育し、増殖していました。肥料分が少ないためか、枝掻きを施さなかったせいか、杖にする程の長さや太さにはならなかったが、アカザ独特の新葉の赤さは実に見事で、これが本物かと思う『アカザ』に出会ったのは、その時が初めてでした。これがその写真です。
↑ アカザ
↑ シロザ
↑ コアカザ
今はそのアカザは1本も残っていません。中島排水路の工事で全てのアカザが消滅してしまいました。団地初の『絶滅種』です。「仙人の杖」を作ろうとの儚い夢も断たれてしまいました。
『アカザ』について、少し詳しく触れてみたいと思います。
アカザは古い植物分類体系ではアカザ科のシンボル種でありましたが、新分類体系のAPG体系Ⅱでは「アカザ科」は並列の「ヒユ科」の中に組込まれました。2000年以降は、ヒユ科アカザ属アカザと大きく分類位置が変わりました。
『アカザ(赤座・藜)』学名Chenopodium album var. centrorubrum 原産地は中国と云う説とインド原産で中国を経由して道教と共に日本に伝わったという説があります。
よく見る似たものに、「シロザ」と「コアカザ」があります。
『シロザ(白座)』 学名Chenopodium album 原産地はヨーロッパから中東です。学名に注目して戴くと、アカザにはシロザの学名の下にvar.が付いています。アカザはシロザの変種と云うことです。ヒユ科アカザ属 種シロザの変種アカザということになります。和名では、アカザ科の中心的種の扱いですが、学名では変種扱いでその面影はありません。この例ではキンモクセイは実はギンモクセイの変種というのも同じです。(シロザとアカザを種として区分しない学者もいる。)小生が上段でこんな見事なアカザを見たのは初めてだと書いたのは、アカザに近いシロザ、シロザに近いアカザが余りに多くて区分の境界が判り難いからです。変種としての隔離安定度が充分で無いのかも知れません。
『コアカザ(小赤座)』学名Chenopodium ficifolium 原産地はヨーロッパから西シベリアです。ヒユ科アカザ属コアカザとなります。日本に帰化したアカザ科の中では、雑草として最も繁殖しています。シロザやアカザとは明らかに葉の形が異なり区別できます。
「アカザ」と「シロザ」の違いは新葉が鮮やかな赤紫か白かによります。アカザやシロザ、コアカザの葉の表面細胞には「粉状毛」と云う葉の表面細胞から出る毛が変化した「粉状で微球形となった突起物」があります。この微球形の中に赤い色素を含んでいるのが「アカザ」で含まず透明なのが「シロザ」と「コアカザ」ということになります。微球形のこの粉状毛は光を乱反射し、赤い色素を含んだアカザは赤紫に、シロザやコアカザは乱反射により白く見えることになるのです。新葉の小さい細胞が肥大成葉すれば、この粉状毛は微細なので目立たなくなり本来の細胞の葉緑体の緑が強調され緑色になります。一般的植物では、葉の表面にクチクラ層やパラフィンを発達させ、有害な紫外線から保護していますが、アカザの仲間は「粉状毛」により、新葉を紫外線から保護していると云うことです。アカメガシワというトウダイグサ科のクサという名のつく科の木がありますが、これも赤い色素の詰った星状毛で新葉の紫外線防止をしています。この場合の赤い色素は窒素を含まない「アントシアン」という成分ですが、アカザの色素は窒素をふくむ「ベタシアニン」という成分だそうです。抗酸化作用があると云われます。いずれも初期の新葉は赤く、成葉になれば、個々の細胞が拡大し、葉全体は緑に見えるようになるのです。
最近、温暖化や異常気象が話題になる中、C3植物に対するC4植物が注目されています。(C4植物:光合成をする過程で、より効率的にCO2を利用し光合成能力を高めるサイクルを持つ植物のことです。例えばトーモロコシやサトウキビがそれに該当します。イネやコムギ等殆どはC3植物で日本の植物の9割以上はC3植物です。)
興味深いことに、アカザ等のヒユ科の植物はC3からC4への進化過程の途中にある植物として注目されています。アカザは多少、光合成効率が良いのかも知れません。
不思議だと思うことに、アカザは、草なのに、木に近い強度の杖が出来る事です。
殆どの植物が菌類との共生(ミネラルや養分・や免疫力向上や水分のやり取り等)していますが、アカザをはじめヒユ科の植物は、共生関係を持たない例外的植物なのに・・・そのハンディーはありません。維管束に特殊性があるのかもしれません。ヒユ科(旧アカザ科含む)は一般的維管束植物の形成層とは異なり、限定された形成層帯の中ではありますが、形成層の活動域が外側に移動して二次木部と二次篩分が交互に繰り返されることがあることが知られています。上記の効率の良い光合成とこの維管束の強化と効率的輸送が草本でありながら、維管束の強さと草本らしい軽さが、仙人の杖に生かされているのかもしれません。
ところで、木本と草本(草)の違いは何でしょうか? 木本とは、二次形成層を持ち、毎年生長・肥大を繰り返すことができるものです。草本は一次(初期)形成層だけで、その年や時には越年して生長・肥大できますが、一次(初期)形成層に限定されます。一次成長しかしなくても長期にわたり生存するものに竹がありますが、二次形成層を持っていませんし、稈は二次成長も出来ません。従い、木本とは云えません。また、草本の性質を持ちながら、長寿の竹は草本とも云えません。竹は竹です(しかし、利用材としての評価で木本に含める場合があります。)。そもそも、木本と草本の違いは植物(分類)学の世界では「本質的違いはない。』とされています。例えば、トウダイグサ科では、ノウルシやコニシキソウ等の草本もあればナンキンハゼやアカメガシワ等の木本もあります。
ところで、「仙人の杖」は、岡山や茨城、山形県で栽培し、販売しているそうです。ネットで簡単で入手できます。値段も安い様です。是非、黄門様気分で長寿を謳歌して下さい。
「アカザ」の花言葉は「恥じらい」です。何と初々しいことか。「仙人の杖」とはギャップが・・・。
次回からは、団地内の木本(樹木)を紹介します。
以上
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