コラム:団地の木や草やキノコ 草花2 『ハナドクダミ(ヤエドクダミ)』

投稿 YZ

  『ドクダミ』を知らない人は多分いないでしょう。「毒を矯める・止める」または「毒や傷みに効能がある」という意味の「毒痛み」が由来とされています。あの強烈な臭いを嗅いだことがあると思いますが『ドクダミ』は、生葉では鼻詰りの解消や殺菌効果があり、乾燥した葉を煎じて飲めば、血液をサラサラにして血圧を下げる効果、貧血防止効果、アレルギー体質改善効果、骨粗しょう症予防効果、膀胱炎を抑える利尿効果等があるとされています。ゲンノショウコやセンブリと同様に馴染み深い薬草です。反面、最も根絶が厄介な庭や畑の雑草の代表格でもあります。

   学名(属名+種名)のHouttuynia cordata は、属名は、命名者のオランダの医者ハウトインに因んだもので、種名は、葉の形が心臓に似ていることからその意のラテン語コルダータが付けられたそうです。原産地は日本の本州から東南アジアに分布する草本です。日本では生薬名を十薬(ジュウヤク)とも云い、江戸時代の本草学者でもあり儒学者であった貝原益軒が「大和本草」で、「馬に用いると十種の薬の能あり」述べられたことに因むそうで多くの薬効があることが知られていました。現在の化学分析でも、生葉の強烈な臭いの成分のアルカトイドは、強い抗菌作用(但し、乾燥すると臭いと共に消えてしまう。)があることが判っていますし、フラボン類は強い抗酸化作用があり、細胞の保護作用や血液サラサラ効果があり、民間薬の代表と云われる所以です。その他、カリウム、マグネシューウム、ナトリュームなどのミネラルも豊富に含んでいます。

  ドクダミの花をじっくり観察したことがありますか?実は、ドクダミには花びらはありません。四枚の白い花弁と見えるのは、「総苞」と呼ばれる花穂を守っている苞の集まりです。ドクダミの花は先が三裂した一本の雌蕊とその子房の付根に着く三本の雄蕊が1セットの小花となり、花弁はありません。螺旋状にその小花が沢山集合して花穂花序なったものです。総苞の上の花穂において小さく黄色く見えるものが雄蕊、小さくて白く見えるのが雌蕊です。ドクダミの繁殖は殆ど根茎によりますが、種繁殖もします。種子の出来方が非常にユニークです。黄色い雄蕊があるにも拘らず、殆ど自家受精も他家受精せず、単為受精と云って雌蕊の胚珠の中の体細胞分裂で種子を造ります。そして、種子をばら撒くのです。植物でもヤマコウバシ等が単為生殖しますが、動物でもダニ類やアブラムシ、女王がいる集団蜂(ミツバチやスズメバチ)や蟻の仲間も季節により単為生殖します。ドクダミが被子植物の中で原始的と言われる所以は、花弁を持たない単純構造の花の集合花である事だと云われますが諸説があり、よく解りません。新エングラーの分類体系・クロンキストの分類体系でも原始的被子植物類とされてきましたが、最新のDNAによるAPGⅢ分類体系においてもドクダミは原始的被子植物群であることが立証されています。コショウ目の植物として、コショウ科やウマノスズクサ科と同列の科の位置(コショウ目ドクダミ科ドクダミ属ドクダミ)にあります。ドクダミに近い仲間として属は違いますがハンゲショウ(ドクダミ科ハンゲショウ属ハンゲショウ)があり、町田さんの文学作品にも題材に使われています。一読されることをお薦めします。

ハナドクダミ(ヤエドクダミ)の写真挿入

下、半化粧

 ご覧のとおり、このドクダミには花弁らしきものが沢山あります。不思議ですね!このドクダミは団地内のあちこちで見られるようになりました。当団地には、植物に大変詳しい方が7号棟にお住まいです。N夫人です。この方が10数年前に団地に移植し、現在に至っています。この花弁に見えるのは雄蕊が花弁状の苞に変わったものだと云われています。従って花弁ではありません。やはり花弁は無いのです。他所では見ることのない大変珍しいドクダミです。原始的植物の進化の過程を視ている気になります。原始的というのは、この世に誕生してから多様な厳しい環境を乗り越え、逞しく適用進化してきた長い歴史のある植物であるということでもあります。

このように、雄蕊(オシベ)が花弁風に変化した植物は、沢山あります。団地内での八重のサザンカやツバキ、八重のサトザクラ(品種関山等)、八重ヤマブキもオシベが花弁化した例です。また、オシベやメシベ、花弁、ガクは、進化の過程で葉が変化したものでもあるとも云われております。サトザクラの品種フゲンゾウ(普賢象)やイチヨウ(一葉)はオシベが花弁化する一方でメシベが葉化したものです。団地内にあるシロヤマブキはガクが葉化しています。先祖返りした例とも云えます。植物の進化を彷彿する興味深い形状はあちこちで見られます。是非、観察してみてください。

尚、半日蔭を好むこの珍しいヤエドクダミ(ハナドクダミ)を大切に見守って頂きたいと思います。因みにドクダミの花言葉は「白い追憶」だそうです。        

以上

0コメント

  • 1000 / 1000