コラム:猫ものがたり・1

 或る日、突然に猫がやって来た。

 一昨年の4月、家内が一匹の猫を拾って来た。猫は怪我をしていた。右手首上の皮が5ミリほど離れていて、そこから真っ赤な肉が見えていた。

 取りあえず、車で10分程の犬・猫医院へ連れて行く。年配の医師が消毒し、薬をつけ包帯を巻いてくれた。猫は始め少し抵抗したが、やがておとなしくなった。

 猫との出会いは、家内が散歩道を歩いている時のことであった。いつもの通りを歩いていると、猫が道端で倒れていて、腕から血を流している。びっくりして家に連れ帰ったというわけである。

 それから、週2回ほどの通院が始まった。私は80歳を超えていて、時間は自由になっているので、なるべく医院の空いている時間を見計らって、車を出した。

 家内の散歩道は、高等学校の校庭の外をぐるっと回るコースで、地元の人達が良く通っている。特に、裏側に当たる辺りには野良猫が居ついていた。拾ってきた猫は、生まれてからおおよそ4カ月位ではないかと思われた。

 散歩道で、野良猫たちの世話をしている篤志家の女性と家内が知り合いになった。その

彼女が、野良猫を見つけると、自費で去勢をしていたと言う。餌も与えていた。

 医院では、野良猫の去勢を飼い猫よりも安い値段で処置をしていて、その年配の女性はそこで処置をお願いしていた。家内が連れて来た猫は、その人の関係で、すでに去勢されていた。

 医院の壁に、保護猫譲渡会、というポスターが貼ってあった。

 どうやら、野良猫の世話をして、飼い主を見つける活動をしている人たちがいるようだ。

 医院に通っていて分かった事だが、野良猫を集めて、自宅で世話をしている若い女性がいるのを知った。

 怪我猫のもらい手はなさそうな事と、何日か世話をしているうちに、家で飼うことにした。人を恐れていて、中々近寄らない。ダイニングキッチンは人の出入りがするので、もっぱら次の6畳の部屋の隅に隠れていた。その部屋は主に私が使っていて、机やキャビネットがあり、隠れやすい。机の裏側に潜んでいる事が多かった。その場所を私は「いじけコーナー」と呼んでいた。

 その傷と、脅えが消えない子猫は、あわれを誘った。哀は愛に似たり、とは実感である。

 私はもう老人であり、歳の離れた家内も、60歳の半ばに近い。娘が同居している。

 人間という種類の動物以外の生きものが近くに居て、生きている、と言う感覚はなぜか

ふしぎな気持ちを抱かせる。夜なかにふと、目を覚まして、別ないきものの気配を感じるのは、いのちの不思議さを思わせるものであった。

 写真を2枚掲載する。1枚は右手に包帯をしている姿である。もう一枚は、硝子戸から外を見ている。この後ろ姿からは、何時も何かを考えているのではないか、と言う思いが浮かんでくる。自分が生まれた場所への郷愁か、それとも生みの親への思いか。猫が何かを考えている、と何時も思わせる後ろ姿である。

大宮 今羽町団地 OK会

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