コラム:団地の木と草とキノコ3(完)珍菌「ベニセンコウタケ」

―珍菌&菌類のまとめ―

投稿YZ

キノコの最終回ですので、菌類の生き方と進化について植物との関係を中心に整理しておきたいと思います。

12~8億年前に誕生した「菌類は」4億8千年前に植物との共生関係を築いて上陸しました。そうして植物との相利共生により菌根菌は「植物を育て森をつくる」役割を果たし現在に至っています。菌根菌も内生菌根菌から数タイプに分化し外生菌根菌の中にはキノコをつくるものも誕生しました。しかし、共生関係と云っても、「菌根菌」や「内生菌」のような全てが相利共生にある訳ではありません。菌類側だけに「利益」がある「片利共生」も存在し、やがて植物から養分を収奪する「寄生菌」へ進化した系統もありました。一方、植物側でも逆に菌類に寄生する「寄生植物」も誕生しました。ギンリョウソウ、ナンバンギセル、ヤセウツボなどの「菌寄生植物」です。キノコの「ナラタケ」は数多くの樹木の「寄生菌」である一方、ラン科の「オニノヤガラ」には「完全寄生」されています。このように菌類と植物との関係は共進化により多様化しました。「寄生菌」はさらに積極的に植物(生物)から養分を収奪するために「植物(動物)病原菌」に進化するものも誕生しました。時には、殺生までします。

現在、植物の殆ど(ヒユ科やアブラナ科・タデ科・カヤツリグサ科を除く9割以上の植物)は、菌類の共生が絶対必要条件になっています。光合成によりエネルギー源の基質はできても、基質をエネルギーに転換し蓄積するには「燐(リン=ATPの原料」」が必須です。他のミネラルも同様です。殆どの植物は「リン」を得るには菌類の橋渡しに依存しなければならないのです。一方、上陸した当時の菌類にとっても植物からの有機生成物の受給は、必須条件であったと思います。「窒素」はミネラルとして吸収は出来ませんから植物との共生は絶対条件に近かったものと思います。窒素は菌体の構成基質であり、酵素源にもなるアミノ酸・タンパク質の基材です。

菌類は本来、分解酵素を外部に分泌し、有機物を体内に吸収し易いものに分解して養分として吸収活用する生物です。4憶数万年前の菌類の上陸当初は、有機物が貧弱なうえ、菌類の分解能力も不十分であったことからミネラルの吸収は出来ても有機物や高分子化合物を分解して吸収できるまでの能力は欠落していたと考えられています。古生代に発達した大型のヒカゲノカズラやシダ類及びシダ種子植物は死骸のまま分解されずに堆積・埋没し、現在の石炭になったと考えられています。菌類の分解酵素の進化により、植物を含む生物のリター(生物遺体)を分解する能力とリターから「窒素源」を自ら吸収できる能力を手に入れた「菌類群」は、植物との「共生菌群」と袂を分け、「分解菌(腐生菌)」の方向に進化して地位を確立しました。木材を分解する「木材腐朽菌」、落葉や草のサッチを分解する「落葉分解菌」です。「あらゆる地上の生物」が「分解菌」のお蔭でリターが無機物に分解還元(細菌や微生物の関与もありますが)されています。植物が炭酸ガスと光と水で合成した有機物を「分解菌」が元の炭酸ガスと水に還元する。まさに、「地球の掃除屋さん」の役割を果たしていると云っても過言ではありません。

 ところで、「菌界」は、生物を8~9の「界」に分けた中で「動物界」、「植物界」と同レベルに位置している生物です。「菌界」をさらに細かく6門+4亜門に分けると、「キノコをつくる菌類」は最も進化したとされる「ディカリ(2核共存体)亜界」に所属する「担子菌門」と「子嚢菌門」に含まれます。「キノコ」は菌界のなかで最も進化した菌類と云えます。進化の過程で子実体(キノコ)の大型化を獲得したのがキノコです。

尚、「内生菌」は解明の途にありますが子嚢菌が殆どで一部担子菌が含まれます。「内生菌根共生菌」は「グロムスキン門」(4億6千万年前に誕生)に所属し、「糖依存菌」は主に「ケカビ亜門」に所属しています。

菌類は150万種あるだろうと推定されていますが、正式に名前が付けられているのは約10万種弱(日本:12000~13000種)です。キノコが主に予属するのが「担子菌門」の菌類で菌類全体の34%、約33,000種が確認されております。「子嚢菌門」は64%、約64,000種が確認されています。「担子菌」・「子嚢菌」で菌類の98%を占めています。「担子菌」(4億年~3億6千万年前に誕生)は、外生菌根菌、病原菌、分解菌(主に木材白色腐朽・褐色腐朽&落葉分解)の役割を担っています。ハラタケ亜門にシイタケやマツタケなどの食材として馴染み深いキノコを形成する菌類が多く含まれます。「子嚢菌」(4億年前に誕生)は、実に多様であり、分解菌(主に木材軟腐腐朽&落葉分解)、病原菌、寄生菌、地衣類・外生菌根共生菌の役割の他、人間にカリニ肺炎やカンジタ症を起こす一方、抗生物質のペニシリンの生成・バン酵母・アルコール発酵等の人の生活に役立つ役割も担っています。

 4億8千年前に植物との共生により上陸した菌類の進化において、大型の子実体「キノコ」をつくる様になったのは、1~2億年前のことです。分解菌として進化したサルノコシカケやオチバタケなどの出現です。1億年前頃には、新しいタイプの共生菌「外生菌根菌」の「イグチ」や「テングタケ」なども出現しました。

日本のキノコの数は2013年度の資料によれば、正式の和名でない仮称名のものを含めますと担子菌が3,900種強、子嚢菌が770種弱 計4,700種弱となっています。キノコの研究者や専門家によれば、日本のキノコの種類は8,000~10,000種と推定されています。

最後は、団地に生える大変珍しい、貴重なキノコの話題です。

「ベニセンコウタケ」

Clavaria rosea Dalm   : (シロソウメンタケ科)

2011年埼玉県レッドデータブックカテゴリーの「埼玉県絶滅危惧Ⅱ類(VU)

;(埼玉県において絶滅の危険が増大している種)に指定されているキノコです。

2011年埼玉県レッドデータブックでは53種のキノコが指定されています。絶滅の厳しさでは、「絶滅危惧ⅠB(EN)」が1種類有りますが、それに継ぐ厳しい絶滅指定のカテゴリー(VU)にあります。5年ほど前から団地内の2~3カ所の芝生に発生を見ています。今年は夏場の雨が少ない関係で発生が見られませんでした。芝生のサッチ(残渣)を分解して餌にするキノコです。発生は年1回ですが、梅雨明けの7月に発生する場合や、秋梅雨の9月に発生する事もあります。     

「ベニセンコウタケ」 2017.8/20に撮影

ベニセンコウタケは、埼玉県下では、過去2ヶ所の発生(蓮田市と小川町)が報告されています。県下で3番目に見つかった今羽町団地の「ベニセンコウタケ」は、昨年(2017)の8月23日にレッドデータ管理委員の方が採取し、長瀞の埼玉県立自然博物館に標本保管されました。気を付ければ、身近なところに、貴重な物や、珍しいものが結構潜んでいるものです。このキノコについては、15号棟の須賀さんが良くご存知です。団地で大事に保護して戴きたいと思います。

今羽町団地の植物とキノコ「草本4編」・「木本5編」・「キノコ3編」計12編の長きに亘り、お付き合い下さり、有難うございました。これにて最終章と致します。 謝々! 

それでは、皆様、良いお年をお迎えください。 さようなら!       (完)


大宮 今羽町団地 OK会

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