そのかみの少女が初めて詩をよんだ
「ちょうちょうが おうちの庭にとんでいる
おはなのうえを いそがしそうに
おかあさんがだいどころであたしを呼んだ
もどってきたとき ちょうちょうは居なくなっていた
どこへいったの
おはなのなかにも おにわのどこにも見えない
かなしくなってみあげたお空にも
そうだ きっとわたしのおともだちのところへ
飛んでいったのだわ おげんき?といって」
その後、少女は長いこと詩をつくることはなかった
短歌を書くことはあったが
75歳の誕生日を迎えて それ以来の詩作をこころみた
わたしの歳月はどこへ行った
足元に打ち寄せる波が
繰り返しさらっていったのだろうか
砂浜に残された岩のかけら
それはなぜか人の顔に似ている
青と茶のまだらな海草
しろい貝殻
うつくしく光るガラスの破片
早めの結婚 出産
失った長男、最愛の夫
いま、娘や孫がやさしい祝いのことばをかけてくれる
足裏をくすぐる波はしだいに遠く去って行く
地平線の向こうまで流れて行く
その先に夫や長男が待っているのだろうか
同窓の友たちのもてなし
75歳のささやかな祝宴
砂の上にのこっている その痕跡も波が浚って行く
それでも うたげの楽しかった賑わいは
たくさんの苦楽とともに
こころに残っている
平成23年6月26日 町田 辰夫
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