今年も桜の季節がやってきた
花の盛りは短く
たちまち風を受けて
散り始めた
歩道の上に薄いピンクの花びらが集まって
無粋なコンクリートを飾っている
まだ初々しい敷物の上を靴で踏みつけるのは
残酷で、ためらいがある
公園の中の老木は
枝を払われて、花の姿を変えている
人も変わる
わが友の多くは杖を使っている
私はまだ二本の足で歩いている
来年もまたこの道を、花吹雪を浴びながら
歩いてみたいと願う
過ぎた月日は早く
一年先の春は遠い
明日のことは分からない
それならば
好天に恵まれ、花を浴びている今
この甘美な時をしみじみと味わい
至福に囲まれたまま歩いて行こう
至福に囲まれたまま歩いて行こう
町田辰夫
(2023年4月28日(金)朝日新聞掲載)
0コメント